キオスク文学の明日
「翻訳の世界」海外レポート1998年1月号掲載

新聞で本に関するおもしろい記事を見つけた。
スウェーデンにはかつて「キオスク文学」と呼ばれるジャンルの本があった。(ちなみにスウェーデンでも駅の売店はキオスクという)内容は大別してウェスタン物、刑事物、そして女性向のロマンス物の三種類で、文字通り駅のキオスクで売られており、通勤や旅行の時列車の中で人々が退屈をまぎらわすために読む軽いエンターテインメントの本だった。このキオスク文学、六、七十年代に最盛期を迎えた後衰退の一途をたどり、1993年に配給会社が倒産してからもうほとんど見られなくなってしまった。今ではわずかにハーレクイン系ロマンスが一部の大きなキオスクに置かれているのみだ。
衰退の理由としては、配給会社倒産時に各キオスクが負債を抱えて懲りたということの他に、人々がコンピュータ等他のメディアに目を向け始めキオスク文学のエンターテインメントとしての地位が下落したこと、趣味の多様化により人々が興味を持つ読み物も変わってきたことなどが上げられている。ロマンス物だけがいまだに健在なのは女性には比較的コンピュータオタクな人が少なく、また女性の方がそれほど活字離れしていないせいかもしれない。
このジャンルでの第一人者で、スウェーデン系移民のカウボーイを主人公にしたシリーズを出していたある作家は、今ではヤングアダルト物を中心に書いている。かつての最盛期には四、五日に一冊を書いていたという。彼の作品はもちろんベストセラーになって、六カ国語に翻訳されている。作品作りのモットーは「自分が読みたい作品を書くこと」。しかしこの手の作品がノーベル文学賞にノミネートされることはありえない。この作家が考えるキオスク文学がもたらした功績とは、普段本など読まない人達をも読書の世界に引き込んだことだと言う。
本を売る出版社の立場から見たキオスク文学は、もう終わりだ、いやまだ可能性がある、と編集者によって意見はまちまちだ。最後に「一度くらい新聞の文化欄に載るような作品を書いてみなくないか」というインタビュアーの質問に対し、前出の作家はこう答えていた。「誰のために書くんだい? 私ならそんな本は読まないね」
(さよこ)

