スウェーデンお料理事情
「翻訳の世界」海外レポート1997年10、11月号掲載
LNhanaA2.1.gif


「私が日本をどうしても離れられないのはやっぱり食のせいですね」とベテラン添乗員氏は言った。世界中、そして日本中も仕事で旅してまわり、得た結論だそうだ。「もう日本には何でもある。たいていの外国料理で日本で食べられないものはない。それに味付けも日本人向けに工夫されていておいしい。特に私は鮨が好きだからね」
ごもっとも。通の人にとっては外国の日本料理店で出される鮨にはたぶん満足できないだろう。

昔、私のスウェーデン語教師は堂々とこう言ってのけた。「スウェーデンの家庭料理は4種類あり、毎晩夕食にはこの4つを順繰りに作るのです」んなアホな?! だとすればスウェーデンの主婦は今日の献立で頭を悩ます必要はないわけか? 料理嫌いな女性よ、ぜひスウェーデン人と結婚しよう。ちなみにこの4種類とは、

・ハムステーキと茹でたじゃがいも
・肉団子と茹でたじゃがいも
・チキンローストと茹でたじゃがいも
・じゃがいものグラタン

いくら料理が嫌いでもそんなにじゃがいもばかり食べられない!!と言う人、それくらいで驚いていてはいけない。
私がある夜、友人某宅に遊びに行ったときのこと。友人の奥さんが「せっかくだから夕食をいっしょに食べましょう」と言う。仕事から帰って来て疲れているだろうに、悪いなあ、と思っていると、しばらくして食卓に並んだのはスライスしたパンと、トマトときゅうりの輪切りだけ。パンに野菜を乗せて食べる、これも立派な夕食なのだ。私はそのままでは寝れず、家に帰ってすぐにインスタントラーメンを作った。

こちらの女性と結婚している日本人男性はどうしているのだろう?
私の知っている限りでは、一人は職業コックで日本の家庭料理はもちろん、ケーキまで自分で作れてしまう人。もう一人は「夕食なんて何でもかまわないよ。飲み込んで満腹になってしまえば何を食べたっていっしょだろ」うーむ、こだわりを捨てることが夕食の悩みから開放される第一歩か・・・。



日本人に理解できないのは、その食べ物だけではなく食べ方も、かもしれない。こちらでは高級なレストランほど、食事は時間をかけてするものである。しかしこんなところでも日本人旅行者はやたらせっかちである。フルコースも次から次へと間髪を入れず出てこなくては気が済まず、一瞬でも間が開こうものならもう大変。でもせっかくの料理をどうしてそんなに焦って食べなくてはいけないのだろう。

ストックホルムに来る団体旅行の目玉のひとつに、ノーベルディナーがある。これは、毎年12月10日ノーベル賞授与式の後晩餐会が開かれるストックホルム市庁舎で、王様一家や受賞者が召し上がるのと同じメニューを食べていただくというものである。ただし、場所は市庁舎の中でも晩餐会会場と同じホールではなく市庁舎付属のレストランで食べていただく。メニューは毎年違うのだが、日本人に人気なのはやはり大江健三郎さんがノーベル文学賞をもらった年、1994年のメニューである。

このノーベル賞授与式と晩餐会の様子はすべてテレビで生放送される。それはちょうど超有名芸能人や某力士の結婚式の時のような感じで、と言えばわかりやすいかもしれない。授与式はさすがに厳かな雰囲気だが、この市庁舎の青の広間で開かれる晩餐会になるとだいぶん雰囲気はくだける。王様一族はそれぞれがノーベル賞受賞者の隣に座られ、ニコニコと談笑されている様子もちゃんとテレビに映されている。飲み物、前菜とメインデイッシュ、それぞれを食べるあいまにはだいぶん時間的な間隔があり、その間国内外のアーティストらが歌や演奏を披露する。だから食事には相当時間がかかるわけだ。デザートも終わると2階の黄金の間に移動し、そこでお酒を飲みながらダンスパーティーとあいなる。

この食事のシーンだけで十分3時間番組が作れてしまうノーベルディナー。
なのに、日本人観光客が食べると30分ももたない。
ちなみに1994年に大江健三郎さんが王様と召し上がったメニューとは、

前菜 … 鴨胸肉の薫製、マンゴー、マンゴルドの巻き込み
マシェーサラダと松の実付け合わせ
メイン … 仔牛のヒレ肉、サルビアとポンポン茸の付け合わせ
トマトのほうれん草詰め
ポテトのパンケーキ、生姜入り
デザート … ノーベルアイスパフェ、綿菓子添え
コーヒー

「ちょっとちょっと、たったこれだけなの、本当にこんなたいしたことないもの食べたの」
とグルメの添乗員さんは言った。
本当にこれだけなんです。だって、ディナーって食間の会話を楽しむものなんですもの。



(さよこ)


BTRIBONB1P-BACK.GIF


BTRIBONB1P-NEXT.GIF


BTRIBONB1P-HOME.GIF