あの家族は今・・・?
「e-とらんす」世界の街から、2001年6月号掲載

私がスウェーデンに来てまだ数ヶ月の時のことである。
学校の合間にできるアルバイトを探していたが不況の折全然
見つからなかった。こちらにはPersonlig Assistant といって、
独立して住居を構える障害者や高齢者の家事手伝い等のアシスタント
をする仕事がある。これに私も応募したが返事は無しのつぶてだった。
ところが一件だけ、面接に来ないかと電話がかかって来た。私は喜んで
夫とともに指定された団地に向かった。そこが依頼者の住居だった。
団地は似たような建物が並んでいてわかりにくく、私たちは言われた時間に
1、2分ほど遅れた。ドアを開けるなり依頼者の中年男性は言った。
「共同作業なのに時間に遅れると困るじゃないか」
部屋の中は足の踏み場もないほどごった返していた。
その男性の妻で車椅子の女性が居間の中央に構えており、その周りを小学生
くらいの子供達が走り回る。後方ではアシスタントらしき若い女性が洗面器で
大型犬を洗っていた。夫はいらいらした調子で家庭状況の説明をした。
何かの病気らしく、妻のみならずその男性も働いていない。子供は4人、あと犬、
猫を数匹飼っている。アシスタントは交代でもう2、3人来ているが人手が足りない
ので私に電話したらしい。
不機嫌な男性をよそに、妻はとても朗らかな人で、私をつかまえると夢中で、
テレビで見た中国の話を始めた。用事でもう出かけなくてはならないという男性は
彼女を制したが、話好きらしい彼女は一方的に話続ける。私はどうしていいかわからず、
ただ玄関からその家族の様子を見ていた。
依頼者の住居を後にしたら私の夫は苦々しげに言った。
「いくらなんでもあそこで働くことはないよ。それに彼らの生活費もアシスタント費も
全部僕らの税金から出ているんだぞ。なんであんなに子供を作ったりペットを飼ったり
しなきゃいけないんだ」
後日依頼者の男性から電話があった。私は自分のスウェーデン語が下手なのを理由に
仕事を断った。男性はそれでもかまわないと哀願するように言ったが私にはやはり
そこで働く自信がなかった。
最近日本でよく起きる子沢山の家庭の悲劇を聞くたびに、なぜかあの時の出来事を
思い出すのである。あの一家は今頃どうしているのだろう。
(さよこ)


