女子大生さよこ(1)(2)
ランタン第3.4号(1999年6月13、27日)掲載

私が大学4年生だった12年前は、「卒業旅行」という言葉がやっと定着してきた頃だった。日本のサラリーマン、年休などあってなきがごとしだということはいくらぼんやりした大学生だった私でもちゃんとわかっていた。だから「社会人になってしまったらもう今までのように何週間もかけて旅行なんてできない… この最後の春休みは絶対悔いのないよう旅行をし倒さなくては」と思っていた。でも旅行し倒すったって、限られた時間ともっと限られた貯金額と相談したらそうそう世界一周もしていられない。初めはイギリスに一人旅… と考えた。それまで英会話学校に通って英会話も半年ほど勉強していたし、スコットランドの田舎やイギリス式庭園の写真を見て憧れていたこともあって。
でもそれがなぜか結局、台湾島を自転車で縦断するという、おおよそ色気のない旅をすることになってしまった。しかもうら若き女性二人で。なぜ? と思われるかもしれないけれど、これは私にとってはけっこう自然な選択だったかもしれない。
私が通っていた大学は,北九州市にある公立大学だった。学部は文系のものばかりで当時は四つしかなく、大都市にあるマンモス大学に比べるととーってもジミ、女子のノリはどっちかというと高校のそれに近かった、ように記憶している。その頃「女子大生」というと世間では何かこう特別なイメージをもたれていたように思う。当時「オールナイトなんとか」という深夜テレビ番組があって、バカと呼ばれて喜ぶ派手な女子大生が出演し、一般大衆にうけていた。しかし私と私を囲む女子大生たちは、いや少なくとも私の友達はそんな「女子大生=サバけてて華やか」イメージとはほど遠い、どころか滅茶苦茶にかけ離れていた。四畳半一間の下宿から自転車か原付で学校に通い、講義には朝から夕方まで真面目に出席する。特筆すべきは(今から思えば、なのだが)その服装の無頓着さで、体育会系の女の子は着替えるのが面倒だからとジャージで一日過ごしても平気だった。
もちろん私も恥ずかしながらそんな女の子の一人だった。私は体育会サイクリング部に所属していた。この年になって思えば、なんでそんなところへ入ってしまったのか謎だ。いやいや決して自分の過去を否定しているわけではない。だってサイクリングそのものはとってもとっても楽しかったのだ。ただその活動内容があまりにも女子大生していなかったことに今更ながら驚いているのだ。
人はサイクリングというとすぐ、題名は何というのか知らないが「サイクリング、サイクリング、ヤッホー、ヤッホー」という歌を思いうかべるらしい。でも私のいたところはまがりなりにも体育会であるからして、そんな楽しいサイクリングばかりをやっていては名がすたるのであった。
試合も大会もないサイクリングだけれど、他の体育系サークルと同様、週4日練習と称して集まった。その練習内容は、曜日とリーダーによって異なり、基礎トレーニングをみっちりとやることもあれば、二、三時間かけて近場の峠に走りにいくこともあった。しかしこのサークルの中で一番大事な行事といえばやはりツーリングである。初春から晩秋まで、年数回行われる泊りがけのツーリングではただ距離を伸ばすだけではなく、なるべく急な勾配のある長い峠を攻め登ることに意義がある。お金の節約のため泊まるのはテントで野宿、よくて公民館で飯盒炊さんである。みんないつも泥にまみれて汚い格好で走っていた。とても全行程を自転車で走っては行けないような遠場にツーリングしに行く場合、自転車はある程度解体して輪行袋と呼ばれる一メートル四方ほどの袋に詰め込み、列車に手荷物として持ち込む。今回の台湾旅行でも、自前の自転車をこの方法で飛行機に積んで持参して行った。
これが「夏はテニス、冬はスキーの同好会」なんてサークルに入っていたら(そんな気のきいたサークルはあの大学にはなかったが)私の青春はもう少し違ったものになっていたのかもしれない。
でも誤解のないように。やっぱりサイクリングそのものはとても楽しかったのである。自分で計画を立て、自分の足で好きなところに旅行し、見聞を広め、新しい人と出会える。私の田舎では女性は目立たないことが一番とされ、何でも与えられたものを受け入れ自分から積極的に探し求めてはいけないと教え込まれていた。内心ではそれにとても反発していた私は、サイクリングを始めたことで自由の翼を得られたように感じられた。不思議なことに両親はあまり心配していなかった。大学のサークルなんだから滅多な事故などないと信じていたのか、その実態をよく知らなかったのか定かではない。もっとも、この台湾行きのことだけはさすがに反対を受けるだろうと、事前に報告することは避けた。
ともかく、一日に百キロも二百キロも自転車で走るなんて、立派な中年女性となってしまった今日では絶対できないことだ。だから、やっぱりあのときサイクリングを体験しておいてよかったなと今つくづく思っている。
(さよこ)


