阿里山<2月23日>
ランタン第30,31号(2000年7,8月)
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朝はとても眠かったが今日は少しゆっくりできるのでいい気分だ。なぜなら走らなくてすむ、輪行の日だから。輪行とは自転車を分解して専用の袋に詰め、列車に乗せることをいう。

駅まで行くと「自転車はバラさなくてもそのまま列車に乗せていい。ただし荷物ははずしておくこと」と言われた。どうして荷物ははずさないといけないのかは謎だったが、バラさなくてもいいというのは面倒臭くなくありがたい。日本では自転車の袋も持ち主といっしょに普通の車両に乗るのだが(大きな手荷物扱いで特別料金必要。例えば籠に入れた犬や猫も同じ扱いになる)、今回自転車は完全な荷物として、客車とは別の倉庫のような車両に入れられた。今日の目的地阿里山のふもと嘉義駅に着いたら手荷物預かり所に自転車は預け、一晩分の着替えだけを持って山岳鉄道に乗り阿里山へ。
何しろ9日間自転車で走りっぱなしだったので、電車に乗れる一日はよい骨休みになった。

駅のそばの食堂で排骨なんとかという定食を頼むと、出てきたのはご飯の上に真っ黒い肉の塊と、卵をこれまた黒く煮たものだった。この黒い煮物は街頭の屋台でもよく見かけた。ルオウェイという台湾の家庭料理である。卵の他にしいたけ等の野菜や、豚肉、鶏肉を煮たものもある。中でもこちらの人が特におやつとして好むのが鶏の足である。ルオウェイは日本人の口に合い、とてもおいしいと私も思ったが、若い女性の口から爪をかっと開いた細い鶏の足がぶら下がっているのを見るのはやはり恐怖であった。

阿里山だけは自転車ではなく森林鉄道を使うことにしたのは他でもない、この
阿里山号は72kmの全長路線の間に海抜2200mを登り、その標高に応じて熱帯、亜熱帯、温帯とそれぞれの植物相が見られるので有名なのだ。ガイドブックには台湾の新婚さんのメッカとも載っている。
紫色の昼顔、大きな野生のゆり、名前は知らないが南国的な赤い花。これで2月なのかい?と思えるほど線路脇には色とりどりの花々が咲き乱れていた。嘉義駅のおじさんは「残念ながら桜の季節はまだだね」と言った。この山の桜は見物らしいが、それらの桜の木は全部日本から持ってきたものだそうだ。

阿里山駅に着いて外に出るととても寒かった。駅の傍の店で竹筒飯というのを食べたが、そこではなぜか都はるみのビデオをやっていた。
宿泊予定だった山荘が満員だったので、売店のお兄さんが親切にも別の宿泊所まで連れて行ってくれた。宿泊所のおじさんは流暢な日本語で「うちの息子が日本に留学しているのですが、今帰って来ています。息子は日本語がうまいですから案内させましょう」と言ってくれた。

だがしばらくして帰宅した息子の日本語はひどくブロークンで聞けたものではなく、おじさんの日本語の方がよっぽど上手だった。しかしよく知らない人が聞くとゆっくりしゃべるおじさんより、早口な息子の方がうまく聞こえるのかもしれない。これは私が外国語会話を勉強するときにも肝に銘じなくてはいけないことだ。外国生活が長くなると、土地の言葉は自然に話せるようになるし、ゼスチャーやあいづちの打ち方なども堂に入ったものになる。だがその実、文法は間違いだらけで「意味が通じる」域を越えないものになっている可能性もある。悲しいかな成人してから習得する外国語は母国語のように「自然」に身に付けられるものには到底ならないのであった。



(さよこ)


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