嘉義―珊瑚潭<2月24、25日>
ランタン第32,33号(2000年9,10月)

「どこの観光地に行ってもつまらない。それよりは自転車に乗って通りかかったときにぱっと見る景色がすばら
しい」とランポウが言った。まったく同感である。私がバスや電車を使わず自転車やバイクで旅するのはそのせ
いでもある。もちろんバスや電車の車窓からでもすばらしい景色は見えるが「ちょっと止めてください」という
わけにはいかない。自家用車での旅もちょっと違うのだ。車だと外界から遮断される自分だけの空間ができてしま
う。自転車やバイクだとそのまま自然と一体化できる。
前日登山電車で会った男の子と帰りのバスでまた一緒になった。昨日はまったく話をしなかったのに、今度はむ
こうから話し掛けて来た。数えで20歳の彼は無職だがもうすぐ兵役につかなくてはならない。その前に最後の
自由を楽しもうと 趣味のカメラを抱えて一人旅をしているのだった。
嘉義駅に着くと受け取った自転車のタイヤから空気が抜けていたというハプニングがあった。いつものように駅
前に陣取り、自転車備え付けの棒のようなインフレーターで空気を入れていると周囲にギャラリーが集まって来
た。なかなかタイヤが固くならない。すると誰も頼まないのに近所の店のおじさんがT型の空気入れを持ってき
てくれた。タイヤはおじさんの力であっという間にパンパンになった。タイヤを触った人は納得したように「緊
(ジン、張っているの意)」と言った。
その後私たちはまた手分けをして宿泊する所を探した。私が飛び込んだ旅社では老夫婦が土間に腰掛けていて、
おばあさんが恐ろしくぶっきらぼうに「2人で500元だよ!」と中国語で叫んだ。なんだこのババア、商売する気があんのか!おまけに2人で500元は相場よりちょっと高い。結局ランポウが見つけた350元テレビ付きの旅社に泊まることにした。(それから後いろいろな中国人に接してわかったことだが、中国のオバサン、オバアサンはものの言い方がきつい人が多い。別に怒っているわけでもないらしいのに、なぜかひどくきつい言い方をするのである。その理由は謎である)
嘉義は意外にけっこうな都会だった。喫茶店で久々に香りつきのコーヒーを飲み、日本料理店で冷奴(でも卵豆
腐)を食べ、最後には枝豆まで出てきたので台湾の油っこい料理に少し疲れた私たちは大感激だった。
翌日、嘉義から新営までは走りやすい道が続いた。道端の牛やあひる、小さい黄色と大きい紫色の昼顔はすっかりお馴染みになった。道路脇に屋台が出ているのはドライブインの代わりなのだろうか。台湾中どこにもあるビンロウ
売りの屋台。このビンロウはドングリのような形の青い実で、こちらの人はガム代わりにクチャクチャ噛む。中
は赤く、唾を吐くと血のように赤くなる。私たちも試しに噛んでみたが、あまり味が無く何がそんなにいいのか
わからなかった。なんでもカフェインのような効果があるのだそうだ。
北回帰線を越えてから道を間違えて困った。隆田駅で休んでいた私たちに暇そうなおじさんが近づいてきて、い
ろいろ世話を焼こうとしてくれるのだが何を言っているのかいまひとつわからない。どうやらこの人たちに普通
語は通じないようだ。ランポウがおじさんに地図を見せてたずねると、珊瑚潭までの道はなんとなくわかったの
だが、おじさんは私たちが理解してないと思ったらしく、着いてこいと近くの交番に誘う。するとそこにいた若い
巡査が、なんとわざわざ日本語のわかるおじいさんを連れて来たのだった。おじいさんは私たちを前にもうとう
に忘れたらしい日本語を思い出そうと必死になっている。そのうち周囲にはどんどん人が集まって、私たちは何と
もおかしくなった。しまいには交番にいた若い男性が私たちを珊瑚潭の入り口まで連れて行ってくれた。珊瑚潭
は湖の名勝である。
泊まった国民宿舎のオーナーが夕食中魚の煮物をサービスしてくれて、今日はあちこちでよく親切にしてもらっ
た一日だった。
(さよこ)

