宜蘭−蘇花公路<2月16日>
ランタン第13、14号(1999年11月21日、12月5日)掲載

宜蘭の朝(2月16日)
宜蘭はけっこう大きな街だった。翌朝、泊まった安ホテルの前に出てみると色とりどりの山車がたくさん出ている。近くのお寺でお祭りをしているようだ。日本で寺というと厳かで静かなイメージがあるが、中国の寺はやたら派手だ。壁は赤や黄色の原色を使っており、線香も日本のものよりずっと長く太く、賽銭箱の前にいつもスモークのような煙を巻き上げている。
山車の間からはラッパや太鼓をヒステリックなまでに掻き鳴らした、賑やかな音楽が聞える。人だかりをかき分けてみるとそこには若い男性が上半身裸で立っていた。目を閉じ、ぐっと精神集中している。周囲にはお揃いの緑のジャージ上下を着たおじさん達が控えている。男性は突然体を強張らせ震え始めた。神懸かりにあったようだ。緑のジャージ達はこの男性に霧吹きで水を吹きかけ、刀を手渡した。すると神懸かり氏はなぜか頭から血を流し始め、取り付かれたように踊り出した。彼の後から同様に上半身裸の男性が出て来た。この男も同じように神懸かりにあい、頭から血を流し始めた。周囲には黒山の人だかりだ。刀を突き刺したわけでもないのに、あの血はどこから湧いてくるのだろう… 。緑ジャージ達は男の体に長い針のついた旗のようなものを次々に突き刺した。それでも男はかまわず踊り続ける。
私達は傍にいた中年女性に訊ねてみた。「あの人達はいったい何をしているのですか」彼女もよくはわからないという。今日はここのお寺のお祭りだが、普段はこんなことはしない、あの人達はこのお祭りを応援しに台湾の南の方から来たのだという。結局はっきりしなかったが、珍しいものを見てしまった。「でもさー、私達これから南の方に向けて走っていくのに、行き先にはあんな人がいると思うとちょっと怖いよね」確かに。私は神懸かりにあった人を実際に見たのは初めてだった。その上あの異文化を感じさせる音楽とあいまって、この儀式には言葉にできない異様さを感じたのであった。
宜蘭 − 蘇花公路(2月16日)
宜蘭は台湾島の北東にある市である。私達の計画はここから東海岸を南下し、台湾島のちょうど真ん中あたりから今度は中央の山を突っ切って西海岸に渡り、最後は最南端の岬ウォーランピーで旅を終えるというものだった。さてこの日は峠こそないものの、前日の峠に続きなかなか走り甲斐のある道だった。
その名も「蘇花公路」という、蘇アウ市から花蓮市まで約130キロ続く臨海断崖絶壁道路。峠ほどではないがアップダウンも適度にあり、眼下は数百メートル下の海という、終始断崖絶壁を見ながら走れるサイクリング冥利につきる絶景道路である。ちゃんと坂の始まりに標識が出ていた。はるか先まで続いていく白い断崖を見て私達は少し緊張した。
左手にエメラルドグリーンの海を見ながらゆっくりと急な坂を登った。この海は太平洋、はるか向こうはアメリカなのだ。海と空の絶妙な青のコンビネーション。海の色は日本の海の深い紺とは違う、強いていえば沖縄で見た海の彩度の高い青だ。朝から時折しとしとと降ってくる雨に悩まされたが、ゆっくりと登ったのであまりきつさは感じなかった。流石は亜熱帯、「小野田さーん、横井さーん」と叫びたくなるような密林ジャングルも通った。
蘇花公路の途中、東アウという鄙びた漁村で昼食をとった。きれいなおばさんとかわいい子供らがいる食堂でチャーハンを頼んだところ、なぜか味噌汁も出てきて日本の香りがした。
途中には何ヶ所か長いトンネルがあった。一方通行のトンネルの入り口には番人のおじさんがいた。私たちが青草くんと出会ったのは、そんなトンネルで順番待ちをしていたときだった。
(さよこ)

